河口湖スタジオでのレコーディング  高橋晴美


気の合った仲間とのレコーディング
8月23日から30日まで河口湖スタジオで油井賢一郎さん(Vocal)のレコーディングを行った。河口湖スタジオでのレコーディングと言えば、「しあわせのせて」に始まり、「愛のピアノ」そして福島順子さんの「愛のうた」に続き、今回で4回目のレコーディングになる。これまでと違うのは、私の作品だけではない映画音楽やスタンダードが中心のレコーディングである事と、6人のバンド編成での同時レコーディングという点である。まさに私にとってわくわくするような楽しいひと時であった。「My Eternal Love」のレコーディングも大編成のバンドでのレコーディングであったが、都会のスタジオのブースに入って行うレコーディングと、大自然の土の匂いを胸いっぱい吸いながら、同じ宿舎で生活を共にするレコーディングとでは全く気分が違う。私は河口湖スタジオでこの業界のエキスパートであるエンジニアの黒田勝也さんとのレコーディングを体験してからというもの、レコーディングに対する観念が180度変わってしまった。それまでレコーディングはとても疲れる大変な大仕事という思いが強かった。しかし今回はその黒田さんに加えて、昔からの気の合った仲間とのレコーディングでもあったため、余計に楽しさは倍増したのである。22日の夜から前乗りで河口湖スタジオに入り、翌日は午前中から各楽器のセッティングに入った。
今回のレコーディングに関しては、一切のスケジュール調整とプロデュース、そして編曲とピアノ、シンセサイザーの演奏を依頼されていた。それぞれの曲のアレンジによって当然楽器編成も異なるわけで、多忙なミュージシャンのスケジュールと照らし合わせながら、レコーディングの順番、TDまでの一週間の時間割を作成しなければならなかった。どこへ行くにも資料を持ち歩き、ただでさえ働かない頭を働かせてパズルに悩みながらレコーディングの時間割を考えた。到着の時間が遅れる最悪の状態も考えながら。しかし、思いの外スムーズに事は運ばれて行った。気の合った仲間で音楽する事ほど楽しい時間はない。何しろベーシストのジャンボさんこと小野照彦さんとドラマーの八木秀樹さんは1995年96年の2回のパリ公演にも参加してくれた、私にとってかけがえのない仲間である。そして油井さんは実にのどかでフレンドリーな人柄で、出会ってからかれこれ15年が経つ。一般的には歌い手さんは自分の声の調子を整え、自分のプレイバックを聴き、歌い手さんの事を周りが気遣うのが普通である。しかし、油井さんは初日からスーパーに買い出しに行き、夕飯時には短時間で彼の手料理が一品加わるという、大変にまめなお方なのだ。そういう人柄であるから、歌も気負いのない押し付けのない、彼の人柄そのものの歌なのだろう。彼がこのCDに残そうとしているのは、彼が最も愛した音楽であり、「音楽」とは字に書いてある通り音を楽しむものである。録音中も笑いが絶えなかった。

「スターダスト」
例えば「スターダスト」のレコーディングの時である。バースの部分をピアノと歌だけで演奏した後、八木ちゃんのカウントで油井さんのピックアップからサンバになるというものであった。ピアノで夜空に星を散りばめて弾き出したが、いくら弾いても全然歌が入ってこない。しびれを切らした私が「早く歌入ってよー」と言う。「ごめんごめん」とやり直し。
何しろ、中央の一番広いスタジオにフルコンのピアノ、私がピアノのいすに座った位置から見ると、左後ろのブースにジャンボさん、その向かいにギターの岩見さん、その右のブースに八木ちゃん、その隣にフルートの井上さん、その隣にサックスの宮野さん、そして私の右側はコントロールルームで、金魚鉢の向こう側に卓が並び黒田さんがその中央に座っている。当の油井さんはそのコントロールルームの右側にいて演奏者の誰からも声はすれども影も形も見えないのである。判断はすべて耳だけなのだ。無事にバース部分が終わったが、そのままシーンとして何も始まらない。右向いて左向いて周りのブースのメンバーを見渡す。みんな同じように「あれー?どうなっちゃったのかな」という顔つき。「八木ちゃんカウントしてよー」と言うと「したよー」という返事。カウントが聞こえなかったため、油井さんが歌い始めなかったのである。油井さんが歌い始めない限りこの曲はストップしたままだ。「それじゃーもっと大きな声が聞こえるようにこちらで調整します」と黒田さん。
「one,two,three,four」の八木ちゃんのカウントで「Sometimes I~」と油井さんが歌い出し、サンバのリズムに乗ってキラキラした「スターダスト」が泳ぎだした。最後は星の瞬きが見えなくなって点になるまで続いてやがて音が無くなった。終わったとたん、みんなが口々に「いやーどうなるのかと思った。これでやめるのかと思ったら誰もやめないし」と笑いながらブースを出てきた。結局このOne TakeがCDに収録される事になった。今思い出しても一人で声を出して笑ってしまうような、思い出に残るレコーディングの一齣だった。


「少年」と「Good-bye」
今回、収録した私の作品の中でも皆様にもお馴染みの「少年」と1995年の阪神大震災のためのチャリティーコンサートで最後にまり遥さんに歌っていただいた「Good-bye」のCD収録に関しては、入れるか入れまいかかなり悩んだ。この2曲とも油井さんが最も好んで歌ってくださっている曲ではあるのだが、スタンダードと映画音楽の中に日本語でしかも知らない曲が混じるとなると、油井さんのCDを初めて聴かれた方に違和感を持たれないだろうかが疑問であった。しかし油井さんを応援するファンの方々のご要望と、この作品を最初に歌った方が油井さんであった事などを思い、最終的にCDに入れる事にした。「Good-bye」の2番は日本語でなく英語の訳の部分を入れ、オリジナルの8ビートを2ビートにして、油井さんの歌い方に合う様に変えた。果たしてオリジナルをご存知の方にどう響くだろうか…。


バーベキューパーティー
さて、このような具合でレコーディングは進み、29日には油井さんのスポンサーをお迎えして恒例のバーべキューパーティーで盛り上がった。この日はあいにく雨であったため、ベランダで焼かれたものを屋内でいただくという形になった。TD(トラックダウン)前のレコーディングした音楽を聴きながら、楽しい団欒のひと時を過ごした。
緑豊かな自然の中で、大好きな音楽を大好きな仲間と共に演奏しながら過ごした一週間。忘れられない思い出が又一つ増えた。



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タイトル:油井賢一郎 Timeless Classics(タイムレス クラシックス)
価格:2800円
収録曲目: 1.Blue Moon 2.Moon River 3.The Shadow of your Smile 4.少年(高橋晴美作曲) 5.The Rose Tatoo 6.Days of Wine and Roses 7.From Russia with Love 8.Tea for Tow 9.My way of Life 10.Star Dust 11.Good-bye(高橋晴美作詞・作曲) 12.Danny Boy



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