小野瀬先生からのお便り

  コーラスハルミオンの合唱を指導されていらっしゃる小野瀬先生からとても感動的なお便りをいただきました。新しい転任先の高校での音楽の授業。声を出して歌うことさえ出来なかった生徒たちにどうやって授業をするのか。晴美さんの曲に、生徒達はどう反応したのか。小野瀬先生の温かい愛情に満ちた文章を,次にご紹介致します。
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2001.7.21 小野瀬照夫 。

転任
 今年の4月に、8年間いた川越女子高校を出て転任致しました。ここは、いろいろな点で前任校とは違います。共学であること、萎縮にも見える生徒の自分自身に対する姿勢、放課後の過ごし方、そして両親に対する考え方です。さて、この学校でどうやって音楽の授業をしていこうか?いろいろ考えているうちに新学期が始まりました。

「シーン」からの出発
 第1回目の授業を行ってみての驚き・・・生徒は殆ど声が出ません。「この音だよ〜さんハイッ!」「シーーーン」というやりとりが何回か続き、結局は中学校で歌った曲を歌って終わりました。それから再度、授業について考えていたとき「晴美さんの曲でやってみよう!」と思い立ち早速楽譜をいろいろとひっくりかえしてみました。 Cantare(歌よ大地に響け)が目に留まりました。「これなら行けそうだ。」と思い、まず3年生の授業で歌わせたところ、生徒の声が出たのです!知らなかった曲のはずなのに結構声が出ています。そこで、2年生には「夢飛行」を歌わせて見ました。授業中に携帯電話を使おうとしたり、化粧をしようとしたりして私に怒られながらも、何とか歌いました。結局、この1学期ではCantareを全学年に、プラスして「夢飛行」を2年生に,そして「少年」を3年生に歌わせたことになりました。
 次に、晴美さんの曲で授業を受けた生徒達の反応・様子をいくつかご紹介いたします。

生徒の様子
その1

 3年生の男子で、私がひそかに「ジャイアン」と呼んでいる生徒がいます。根は優しいのですがいつも多きなだみ声で周りを戸惑わせていて目立ちます。そのジャイアンはCantareが大好きで、前奏が始まると上半身を動かしてリズムを取ります。(ちなみに1年生では思わず指揮をしてしまう男子もいます。)そして「おまえらちゃんと歌えよ」と周りのクラスメイト達に気合を入れながら、ところどころ気に入ったところを歌います。彼は、「空を越えて」のところは絶対はずしません。そこだけは必ず歌うのです。

その2
 3年生の別の男子でしょっちゅう欠席している生徒がいます。いれば結構歌うので、いるときもいないときもどちらにしても目立つ生徒です。先日Cantareを歌わせていたら、曲が終わったその直後「歌ってさぁ・・気持ちいいよ」と友達に向かっ て言っているのです。心から素直に出た言葉でした。授業中の私にとっての「嬉しい瞬間」が増えてくる頃の出来事でした。

その3
 1年生の授業中「先生、7・8組の内科診療です。」と呼び出しがあり、中断して生徒を保健室へ引率していきました。廊下での待機中、美術選択の生徒に「音楽はおもしろそうだな。俺も音楽にすれば良かった。」と言うと「Cantareって言う、歌結構いいよ」と応えています。そこで、私が「あの曲をホールの真中でマイクを片手にして格好よく歌ってみたいよな。」と話に加わっていると、脇にいた家庭科の先生が「いいわね、楽しそうで」と羨ましがっていました。

その4
 音楽の授業は2時間続きですが、現在の私の授業パターンは、初めの時間に歌を歌わせ、次の時間は鑑賞を行う方法です。ある日の2年生の授業で、あいだの休み時間に2人の女子が「次の時間の鑑賞は、先生の弾くピアノにして。」と言ってきます。とにかく私は驚きました。そんなこと言われたのは初めてだったからです。聞くところによると、私が晴美さんの曲の伴奏を授業で弾いているとき、とても楽しそうで、また音もきれいだと言うのです。私は、それは作曲者のおかげであることを教えながらも、少し得意げになって1曲ピアノを弾いてみちゃったりなんかしてしまいました。

その5
 ふたたびジャイアンのことです。「少年」を初めて練習したときのこと、まず初めに1コーラス歌って聴かせてやってから、「先生がちょっとずつ歌っていくからついて来いよ」と言って始めたら、あのジャイアンが全曲完璧に歌おうとして必至についてきます。前半の16部音符の連続部分は、ことばの割り振りが大変ですがジャイアンは必死です。「歌えるようになりたい」と言う気持ちが見えており、プリントをじっと見ながら私のまねをして、努力の結果その時間の終わりには何とか歌えるようになっていました。
 しかし、次の休み時間から2時間目まで、ずっと頭を机につけてじっとしていました。どうも、今までこんなに授業中必死になったことが無かったようで、頭がくたびれてしまったようでした。

   高校生という年代は、大体どんな人でも心が不安定になったりするものです。しかし、例えば反発をしながらも、そういう自分を安定させたい、安らぎを得たいと心のどこかで思っているはずです。音楽的な面から見ると、多くの生徒達は日頃激しい音楽を聴いているようですが、授業でしっとりとした、心を落ち着かせる曲を聴かせたりすると、斜め下の床をじっと見ながらしんみりと聴いています。晴美さんの歌も、そういった高校生達の心に浸み通って行き ・反発ではなく感謝を ・破壊ではなく創造を ・否定でなく楽しむことをじっくりと植え付けていってくれると思います。
 但し、大切なことを忘れてはなりません。音楽はどれもそうでしょうが、晴美さんの曲は心を豊かにするために歌うのではなく、楽しく歌っているうちに、自然と心が豊かになっていくのです。  今、そういった音楽を通して、2学期もがんばっていきたいと思いながらワクワクしているところです。


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