皆様からのお便り   小野瀬先生から


 今年の4月に、4年間勤めていた埼玉県立の福岡高校から移動になり、同じく県立の浦和高校に通っております。この高校は知る人ぞ知るすごいところで、県内一の進学校であり、男子校です。毎年東京大学に何十人もの生徒・卒業生が入り、政治・経済・医学・国内、国際社会などあらゆる分野で活躍している卒業生の多い高校です。その中でも特に名の知れた人を言うと宇宙飛行士として活躍した若田さんや途中俳優学校に転向された愛川欽也さんなどでしょうか…。
 移動直前にこちらの先生に訊いてみました。「進学校なのだからやはり受験のための勉強が第一で、音楽などの芸術やスポーツなどは二の次なのでしょうね?」と。ところがその先生が答えるには、「そうではないんです。皆さんそう考えるのですが、実は内の生徒たちは全てにガンバル子たちでありまして、例えば芸術だからといって手を抜くようなことはしません。体育祭やラグビー大会・マラソン大会などにしても皆自分の能力のできる限りの力を発揮し、それはすごいですよ。」と言うことでした。実際4月に「新入生歓迎マラソン」というのがあり(これ、遠足の代わりです)、先輩たちも入学したての1年生もとにかく生徒全員が10Kmを完走するのです。そして何と上位は主に3年生、次いで2年生が占め、そして1年生と大きく学年順になったかのように力の差が現れるのです。ベテランの先生にそのことを訊くと「在学中にみんな鍛えられるんだよね。」と言うことでした。よくありがちな「新入生は一生懸命で、上級生は先輩面をして…」ではなく、先輩達が見本となって後ろ姿で導き、そして温かくも厳しく指導しているのです。この先輩が後輩を指導している場面は日常の部活動や行事などによく見られ、とても頼もしく、また微笑ましく思えます。さて、音楽の授業はどうでしょうか?
 まず驚くのは皆とても大きな声で歌うことです。私がピアノの伴奏をするのに「フタを全開にしないと間に合わないのでは。」と思うほどおなかの底から全身で歌ってくれます。こちらでは伝統的に1年生はイタリア歌曲中心・2年生はドイツ歌曲中心で行っていましたので、現在はそれを踏襲した授業展開をとっております。
 そして、さすが勉強のできる子達は違うなと思わせる場面も多々あります。

【その1】 先月3年生に「通奏低音」を教えていたら、初めて知ったにも拘らず「面白い、これ!俺ハマッタ!」と言って楽しそうにやっているではありませんか。しかもやっているうちにテキストの間違いまで指摘してしまうのです。「これ根音が無い筈ですよね。」と。

【その2】
新学期始まって早々「これ僕の作った曲です。できれば添削してください。」と言って吹奏楽の自作スコアや歌曲を持ってきたのが3人もいました。私なりに思うところ・考えるところを伝えると、「ありがとうございます。参考にさせていただきます。」と言って嬉しそうに帰っていきます。もう迂闊なことは言えません!

【その3】
教育実習生がシューベルトの「魔王」を教えていた時、4人で組んで一人一役でセルフを読んでもらいますと言ってやらせたところ、大半のクラスが楽しそうに、そして雰囲気を出して読んでいるのです。一体このパワーと受け入れる心の余裕はどこからくるのだろうかと思わざるを得ません。

【その4】 現在音楽室と入り口の脇とでグランドピアノが3台ありますが、休み時間になるとその3台が同時に鳴り始めます。それは生徒が楽しく弾いているからです。ある日は1つからはショパンのポロネーズが、1つからはベートーベンのソナタが、そしてもう1つからはリストのラ・カンパネッラが奏でられました。その3つを同時に聴くのはチョット辛いのですが、それでも楽しいことです。試しに「音楽の方面に進むつもり?」と訊いてみたところ「いえ、趣味です。」だって!
まだまだ驚くことはありますが、とにかく全体的な雰囲気はお分かりいただけたと思います。総じてこちらの生徒は、「よい意味で『楽しむ』ことを知っている。」ようです。今後この生徒たちにも是非晴美さんの歌を歌わせ、聞かせてやりたいと思います。これからは晴美さんには男声合唱も多く作って頂かなくてはなりません。これは「パパ広」をはじめハルミオンの男性パートの方々も賛成してくださると思います。
晴美さん、どうぞよろしくお願いします!
今先輩の背中を見ながら必死でついている浦和高校の1年生たちは今後臨海学校でガンガン泳ぎ、秋の強歩大会では浦和から茨城の古河までの50Kmを走っていく内にどんどん立派になっていくでしょう。今の3年生だって初めはそうだったのですから。

        2005/6/21 小野瀬照夫


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