ご あ い さ つ


 9月に入り朝夕はやっと涼しくなってまいりました。皆様お変わりございませんか。 本来ならば、8月1日からの中南米演奏旅行のご報告を申し上げるところですが、出発前々日に父の身体の具合が急変し「持って一週間」と聞き、出発を取りやめる事にいたしました。今日私があるのは家族の惜しみない愛と理解があっての事。父に何かあれば、母が危ない。そして父の後をついで開業医になった弟は、自宅で両肩に父を背負って自分の身体の限界の中で介護を続けてくれております。その家族を置いて17日間の旅に出発する事は私にとって断腸の思いでした。2年前から決まっていた国家間の行事だけに、選択を迫られこれほど悩んだ事もありませんでした。母は決して私をひきとめようとはしませんでした。でも、どちらが後悔しないか・・・と自分に問うた時、自然と答えが出ました。「父のそばにいよう」と。

 しかし不思議な事に、今回はあらゆる事が、私が行かなくても成されるようにプログラミングされていたのです。と申しますのは、まず、本来ならばバイオリニストとお琴の奏者二人と主人と一緒に7月24日に出発するところ、私はこちらでの仕事がぎりぎりまで入っていたため、指揮者の小松一彦さんご夫妻と8月1日に出発する事にしておりました。その為コスタリカでのコンサートはもともと主人が私の代わりに伴奏を弾く事になっていたのです。コスタリカでの演奏会終了後、主人から電話があり、「「母に贈るうた」と「めざめ」を弾いていて感動的だった」、という報告があり、「じゃあ、私が行かなくてもばっちりね!」と冗談で笑いながら話しておりました。

 一方、今回グァテマラでオーケストラと共演する曲は2曲ともインストゥルメンタルでした。その上小松指揮者が、グァテマラ以外の2箇所のオーケストラコンサートにその2曲を選曲していたため、楽団のピアニストが練習を行っていたのです。主人と話し合った結果、私は日本に残る事にいたしました。そう決めた途端、胸の支えが降りました。その代わり、残り3カ国で私の代わりに主人が伴奏してくれる事になったため、伴奏譜を早急に書いて大使館にFAXしなければならなくなりました。ニカラグア、ホンジュラス、ペルーの曲、そしてアンコールの「夢さめて」を書かなくてはならなりません。大嫌いな譜面書きですが、そんな事は言っておれません。毎日、譜面を書いては大使館にFAXを流す作業が続きました。各国の曲は書いて送りましたが、「夢さめて」だけはお琴で演奏する為、オリジナルD♭のキーではなく、Cで書かなくてはなりません。同じ書くのなら、オリジナルキーでも弾けるように書きたい、そう思った私は、この際ジャズイン晴海の時に続けてFinaleのリアルタイム入力をマスターしようと、またまた黒田さんに助けていただきながら、遂に念願のリアルタイム入力でピアノ伴奏譜を書き上げる事が出来たのです。最後に大使館に送ったFAXは老眼の主人にもばっちり見える見やすいおたまじゃくしでした。


 お陰様で主人からは、全プログラムの中で一番評判が良かったのが「夢さめて」だったとの報告を受け、又小松指揮者から、「晴美さんの作品を僕も心を込めて振らせていただきましたが、とても評判が良くてスコアーとパート譜がほしいと言われました、来年たぶん再演する事になるでしょう」という連絡が入りました。
 ありがたい事です。心を込めて演奏してくださった指揮者の小松一彦さん、バイオリニストの大場恵奈さん、お琴の中山衣代さん、濱須美貴さんはじめ、演奏してくださった方々にこの場を借りて心から感謝御礼申し上げます。

 お陰様で、父は何度か危機を乗り越えながら、今も頑張って私達に応えて生きていてくれます。その姿に頭が下がります。かつて医者であった父と、父の後を継いで医者となった弟、最善の治療を施す弟と最善の治療に応えて生きようとする父の姿を見ていると、無言の親と子のやりとりに何度胸の詰まる思いをしたか知れません。父のやわらかくてあたたかい手の感触を肌に刻み付けながら、残された日々を大切にしたいと思っております。

 そのような訳で8月は中南米に行かなかった為、引き続き広島在住の茶谷香さんと毎日連絡をとりながら「10周年記念 愛のコンサートひろしま」の準備を着々と進めてまいりました。コーラスハルミオンからも43名が参加してくださる事となり、練習回数を増やし広島コンサートに向けて準備を進めております。広島では実行委員会が立ち上がり、8月22日には第一回目の会議が広島で行われました。広島の合唱団フェミニンコール広島、そして広島ジュニアコーラスも参加してくださる事となり、先日は合唱団指揮者でいらっしゃる谷千鶴子先生と打ち合わせを、そして又司会を担当してくださる事になったエッセイストの岡部まりさんと打ち合わせをしてまいりました。「愛のコンサートひろしま」を「ひとつ」誕生10周年にふさわしい、みんなの心がひとつにとけあうコンサートになるよう、心して取り組んでゆきたいと思っております。

 さて、10月30日には久しぶりに皆様お馴染みのシーボニアメンズクラブで、ネットワーク6周年記念親睦会がございます。シーボニアの美味しいお食事をいただきながら、久方ぶりに皆様と楽しい語らいのひと時をご一緒させていただきたいと思っております。肩の張らないパーティーですので、お時間許されましたら是非ご参加くださいませ。心よりお待ち申し上げております。
だんだんと涼しくなってまいりますが、夏の疲れが出ませんように、皆様お健やかにお過ごしくださいませ。




   高橋晴美

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